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【Interview】応援Message:コウケンテツさん


挑戦と挫折は生きる力を与えてくれる
身体を休めて、ご飯をしっかり食べていれば、
自分らしい道はきっと見つかる

料理研究家
コウケンテツ さん

コウケンテツさん

 韓国料理はもちろん、和風、中華、エスニックなど、ヘルシーで家庭的な料理を提案しているコウケンテツさん。料理番組や雑誌、講演会などで幅広い世代から支持されています。
 料理の道で生き生きと輝かれている姿が印象的ですが、意外なことに10代のころはプロのテニスプレイヤーを目指されていました。やりたいことに打ち込むために高校を中退したものの、身体を壊してしまい夢を断念。しかし、思いっきり挑戦し、くじけてしまった経験は「かけがえのない、自分の生きる力になった」と話してくれました。

やりたいことのために
高校中退を決意した10代

 僕、10代のころは料理の道ではなく、高校を中退してテニスのプロプレイヤーを目指していたんです。テニスの面白さに15歳で目覚めて、その年齢でプロを目指すなんてあまりにも無謀だったんですが、でも諦めたくはなかった。高校を辞めて人よりたくさん練習に打ち込む道を選ぶことに。でも「テニスがしたいから中退したい」と言ったら、家族も親戚も先生も近所の人まで大反対(笑)。当時は意識的にドロップアウトするのは珍しいケースだったし、僕の場合は在日韓国人なので、学歴がなかったら社会に出られないというふうに思われていたんです。それでも、やりたいことがあるのに時間を使えないのが辛くて、高1の夏休みに「やっぱり辞めたいです」と担任の先生に相談して、休学ののち中退しました。そのあと大検(現在:高卒認定試験)を取得したんですが、結局大学には通わなかった。
 高校を辞めてからは、テニスのクラブチームに入ってプロを目指しました。しかし、19歳のころ、オーバーワークがたたり椎間板ヘルニアになり、2年間寝たきりの生活になってしまったんです。さらに父の会社の経営が厳しくなり、家計もすごく危うくなって、もうダブルショックを受けました。そのときは夢にやぶれ、学歴は中卒、お金もなく、自分には何もないと感じていました。
 身体が良くなったときはすでに20代。家計は厳しかったし、家族に迷惑をかけた分、これからはお金を稼ごうと思って、がむしゃらに働きました。昼、夜、早朝とアルバイトを入れて、毎日20時間くらい働く生活を8年間続けました。そのときは、周りの反対を押し切って自分のやりたいことを優先した代償みたいなものだったと思います。でも、その苦い経験は、そのあと何倍にも大きな力になって自分に返ってきてくれたんです。

コウケンテツさん

苦い経験が
生きる力を与えてくれた

 僕が料理を始めたきっかけは母でした。僕が社会復帰をして働いて20代半ばくらいになったら、家族が頑張った分だけ、家計が落ち着いてきたんです。それで母はすごくバイタリティにあふれた人なので、「子育ても終わったし、今度は自分の夢を追いたい」ということで、料理の道を歩みだしたんです。休みの日に母の手伝いをしているうちに、徐々に僕にもお仕事をいただけるようになりました。
 もともと料理は好きだったし、テニスをしていたときにトッププレイヤーの食事を研究したり、栄養学の勉強をしていたんです。当時はまさかそれがのちのち仕事になるとは思っていませんでしたが(笑)。全力で取り組んだことはそのあとの人生でも活かすことができるんだと思いました。
 そうやって歩み始めた料理の世界ですが、料理の力には今でも驚かされます。落ち込んでいるときとか、自分に自信がないときにすごく力を与えてくれるんです。特に感じるのは仕事で子どもたちに料理を教えているときです。火を使ったり、包丁を使ったり、よく考えてみると料理はちょっと怖いことに挑戦しないといけない。でもそこで頑張って、おいしい料理ができあがるとすごく嬉しいし、自信がつくんです。子どもだったら、目をキラキラさせて喜んでくれます。
 僕自身、「もう何も残っていない」なんて思っていた自分が料理の仕事を始めて、すごく元気になりました。考えたメニューが認められたり、誰かに喜んでもらえると、それがすごく嬉しい。もうすべてがワクワクするし楽しいんです。テニスを辞めてから、心にぽっかり穴が空いた状態だったんですが、それがぐっと埋まって、気がついたらテニス以上に料理にのめり込んでいました。
 でも、もし僕がスススっとストレートに10代を歩んで、20歳そこそこで料理家になっていたら、多分今の仕事に耐えられなかったと思うんです。やはり信念を持って取り組まないとおいしい料理は作れない。悩んで苦しんだ経験が本当にかけがえのない力になりました。

やりたいことに挑戦したい
気持ちは間違いじゃない

 もし今、やりたいことを自分の気持ちに背いて躊躇している人がいるなら、僕はぜひそのやりたいことに挑戦して欲しいと思います。特に10代は貴重なとき。思いっきりやってみたら、その後の人生が苦しくとも、すごく楽しくなると思います。海外に行くと、いろいろな考え方や生き方があり、自分たちの常識では測れないくらい違う世界を見ることができます。今見えている世界は、その中の一つにしか過ぎないんです。
 今はいろいろなタイプの学校が増えて、僕が高校生だったころより、自分のやりたいことに挑戦しやすい環境です。社会に出ると中卒というのは、はっきり言って苦しいものです。何か秀でたものがないとやっぱり行き詰まってしまう。それなら通信制で、やりたいことをやりながら高校卒業を目指せるのは、すごくいい選択だと思います。
 自分の人生を自分らしく生きたいと考えるのは、人として当たり前の状態。「今が辛いな」とか「もう通えない」とか、「ここじゃなくて違うことをやりたい」と考えるのは間違ったことではないんです。だからそれで「自分はよくない」とか「迷惑をかけている」というふうには悩まないで欲しい。

コウケンテツさん

くじけたときは
思いっきり休むことが大切

 僕が身体を壊して、挫折したときはもう心身ともに疲れ果てて、動きたくとも動けない状態でした。そんなときは励ましの言葉はむしろプレッシャーになってしまうことがあります。きっと学校生活ですごく辛い経験をして、メンタルがすごく落ち込んでいる状態の人も、僕と同じように励ましの言葉を辛く感じてしまうと思います。そういうときって疲れ果てているので「そっとしておいて欲しい」という気持ちが強いんです。
 僕が挫折したときにありがたかったのは、家族が変わらないでいてくれたんです。「頑張れ」とはっぱをかけるのでもなく、「可愛そうやな」と同情するわけでもなく、いつも通りに接してくれていたのが僕を前向きにしてくれました。それで「家族のために早く社会復帰したい」という思いが強くなったんです。
 挫折をあじわった人たちは、必ずそのあとに自分で何かを見つけ出す力があります。だからちょっと元気になってきたときに周囲が「こんな道があるよ」と示してあげるだけで、すごくナチュラルに自分の道に進めるんです。とりあえずご飯だけはちゃんと食べて、しっかり休んでから自分の道を探して欲しい。


コウケンテツ
●大阪府出身。旬の素材を生かした簡単でヘルシーなメニューを提案。テレビや雑誌、講演会など多方面で活躍中。一男一女のパパでもあり、自身の経験をもとに、親子の食育、男性の家事・育児参加、食を通してのコミュニケーションを広げる活動に力を入れている。