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生きること・働くこと⑩<最終回> 人はなぜ働くのでしょうか

 2018年10月15日

 
無人島では食事が最大の“仕事”だった。


なぜ人は生きるのでしょう。食べることが好きな人はよく「人は食べるために生きる」と言います。ただ、多くの人は「生きるために食べる」と答えます。よく考えるとこの二つの表現はまったく別のものです。前者は、生きる目的がはっきりしていますが、後者は「なぜ生きるか」に答えていないからです。これが労働の苦しみにつながるのです。すなわち、生きる目的がはっきりしないまま「食うために働かなければならない」という人生の重荷を背負ってしまうことが多いからです。

ここで人類の歴史を振り返ってみましょう。鹿やウサギ、魚介類、山野草を食べていた狩猟時代は、山を走り、海に潜ることが仕事でした。それが、農業革命が起きると自分で野菜を作り、家畜を育てる時代になりました。さらに、産業革命が起きると工場では分業体制がしかれ、全身を使う労働が少なくなりました。現代は、というと、情報革命によって知識労働が増え、肉体を使うことが少なくなったと言われています。さらに、今後AI(人口知能)やネットワーク、ロボットなどの発展によるサイバー革命で、人がやる仕事のほとんどがなくなるということまで言われています。

しなくてよくなった仕事はどうなるでしょうか。狩猟時代の仕事はいまでは弓道やカヌーなどのスポーツになっています。人間は体を動かさないと筋肉が衰えるのでお金を払って“昔の仕事”をしているのです。魚釣りや家庭菜園は趣味になっています。サイバー社会が進むと、私たちが今苦しみながらやっている仕事も、お金を払って取り組む“レジャー”になるかもしれません。

仕事の内容に対する価値観が時代によって変わることを考えると、仕事の内容に働く目的を見いだすのは難しいかもしれません。AI研究者の新井紀子先生は「人間には、意味を考えたり、相手の気持ちを思いやったりする力を発揮する仕事を担うのが理想だ」と言っています。どうやら仕事の内容ではなく、仕事のやり方がポイントのようです。


ちょっと頭を切り換えて、私の学生時代の経験を一つ聞いてください。

私は海洋調査探検部に入っていました。45年前の夏、後輩と二人で「命をかけてこそ探検だ!」と沖縄で1ヶ月間の「無人島生活居住実験」に挑戦しました。結果は自分たちの軟弱さを思い知らされただけでしたが、一つの大きな成果は「食べることの幸せ」を感じたことでした。毎日同じ食材を煮るだけなのに実にうまいのです。一日のほとんどの活動時間は食事の準備に使われましたが、生きている実感は十分ありました。「人間は食べるために生きているんだ」と思ったものです。

さて、本題に戻りますが、皆さんには皆さんなりに考えていただきたいと思います。私は「みんなが楽しく食べることができる社会を作るため」ということにします。まずは、無人島のときの幸せ感を取り戻したいですね。