【学びリンク公式SNS】
フォロー/登録よろしくお願いします!

X(旧Twitter)  Instagram  Facebook  YouTube  LINE 

新着情報

2023年11月08日

児童精神科医 有賀道生さんに聞く「発達障害の子どものこころに寄り添う」(上)

学齢期からの社会的な経験が主体性を生み自分の進路を拓く

 

 

有賀さんには大学院の研究テーマからスタートした少年院との繋がりがあり、嘱託医となって20数年が経つという。少年院で子たちが見せる、「話がなかなか通じない」「指導ができない」といった現状のほとんどが発達障害によるものと最近わかってきた。また日ごろの発達障害など児童・思春期の子どもの診療を通して子どもたちの心と向き合う有賀さんから、発達障害の現状、そして親を含めた周りの大人たちが心がけなければならないことをお聞きした。3回にわたってお伝えする。

 

大学院の研究テーマで始めた少年院と発達障害の関わり

 

群馬には少年院が男女一つずつあります。私は女子少年院には、嘱託医として約20年通っています。私が大学院のときに教授の「有賀、少年院に行ってこい。少年院にいる子たちはメンタルヘルスの問題を抱えていることが多い。調査して来い」という指示で、少年院をフィールドにした調査研究がスタートしたのです。今でも嘱託医として月1回は勤務しています。お世話になり始めた20年前と今とでは少年らの質は様変わりしました。当時はいわゆる「ヤンキー」が多かったですが、今は発達障害がある子たちが多いです。

 

当時は発達障害の概念が浸透していませんでした。研修医の頃は発達障害を学ぶ機会はなく、そういうケースを担当することもありませんでした。少年院に行くと、「話がなかなか通じない」や、「指導が全然入らない」など、少年院の教官から言われていたので、「こういう子がいるのか、謎でしょうがない」といった具合でした。

 

そこで当時の指導教官にいろいろ相談したら、「もしかしたら発達障害かもしれない」との助言をいただきました。それからです、いろいろ発達障害についてチェックして見ていくと、確かに当てはまっているのです。当然、発達障害という診断がついているわけでもないし、発達障害なんて言っても誰もピンとこないころです。今では法務教官が、「この子に発達障害があるかどうか診てください」と言ってくるぐらいですが、当時は私もそういうケースや診療とかをしたことがないので、「一緒に考えましょうか」と大学院のときにやっていた感じです。   

 

「自主的に動ける子に育てていくこと」が一番大事だと思う

 

私には診療を通して数多くの子どもたちを社会に送り出してきている経験があります。成人になってからも引き続き診ている子もいますね。その中で親御さんは、犯罪者になったらどうしようという直接的な心配はもちろんのこと、社会で自立できるのかとか、ずっとひきこもってしまうのではないかなど多くの心配をされています。私としては子育てにおいてとても大事にしたいことがあって、それは「とにかく主体的に動ける子に育てていく」ってことだと思っています。それには、自分で考え、自分で選び、自分で決めるというプロセスをしっかり子どもたちに提供することだと思います。

 

今の教育特に教科教育は「答え」がまず存在します。その答えに近づけるためのプロセスを、しかもみんな同じプロセスをたどるように教えていて、それが少々問題だと思います。むしろ答えがないさまざまな問いに、いろいろと自分で考え、選び、決めてそれぞれが導き出した結論を尊重し合うことですよね。「なるほど、そういう結論もあるよね」のように。  

 

大切なのはいわゆる社会力とか人間力みたいな話で言えば、私としてはやっぱり主体性。これは発達障害があってもなくてもまったく同じだと思っているのです。何をやるにも「こうしたほうがいいんじゃないですか」じゃなくて、「A、B、Cという選択肢があってそれぞれ良し悪しあるけれども、自分の中でそれらを天秤にかけたりしながら選んでごらんなさい」というように、選択の余地があるかどうかは主体性を育むのに非常に大切です。 

                   

 

自己実現の可能性を感じられるのも主体性です

 

主体性を持たせる教育というのは、同時に自分で責任を感じることができるような人に育てるという面でも絶対必要だと思うのです。自分で考えて選んだからには、どう責任を感じて、どう果たしていくか。従属的な生活というのは、他罰的な世の中になるだけだと思うのです。「別に俺が決めたわけじゃないし」っていう。それって非常に、逆につらい世の中になってしまって、みんなが責め合う世の中になってしまうのです。「助け合おう」っていうところから逆行するような感じですよね。

 

学齢期のころからの主体的な育みが、例えば高校のときの進路選択にも生きてくるわけです。周りは学校についての情報提供はするけど、決定権は子ども本人にあるはずです。もちろん学費がどれぐらいかかるとか通学距離などの問題など、さまざまな条件はつくと思いますけれども、最終的に「ここだったら自分の自己実現が可能かもしれない」という可能性を本人が感じられること、それもまさに主体性だと思うのです。そういうことが学齢期には必要なんじゃないかなって思います。主体的にいろんなことを自分で考えて、それで今があるというふうに思えられるかどうか、それが進路選択にすごく大きく影響してくるのではないかと思うんですよね。  

              

自分の心の声を聞きなさい、とナビするのが私の仕事

 

私は進路の相談も受けます。年末の願書提出みたいな時期になると圧倒的に増えます。

私は医者なんだけど診察では「よろずや」みたいになっています。実際に行った子の話、OB・ OGに聞いて、やっぱりそれが一番生の声かなって思います。進学してからも診察を続けていく人がいますので、「学校生活どう?」とか聞くわけです。本人たちの感想をいろいろとピックアップしてためておいて、聞かれたときには、「行った子とか親の話を聞くとどうやらこうだ」と伝えます。「ただ個人差があるので鵜呑みにはしないほうがいいかもしれないけど」っていう前置きをして伝える感じです。例えば10人行っていて、ほぼ9人ぐらい「いい」と言っていれば、それはいいわけですね。

 

最終的には、自分がどうしたいのか、何をしたいのか。自分の心の声によく耳を傾けて、よく自分の声と対話しながら決めなさいと伝えます。そうすることによって得られた結果はうまくいっています。「自分の心の声に耳を傾けなさい」というのは、小学生のころからよく言っているのです。「本当に君は何をしたいのか」とか、「どうしたいのか」「どうしたくないか」のようにね。

 

「本当は学校に行きたくない」のような声が本人には聞こえているかもしれない。自分の心の声を大切に取り扱ってほしい。心の声を雑に扱うなとか無視するなとか、そういう話はしていますね。うまくいってないケースとしては、本当は心の声が聞こえていたりするのに、何らかの外的要因でそれが無視されているのです。「よそいきの自分」は望んでないけど、こうすれば周りがきっと喜んでくれるだろうとか、親はほっとするだろうみたいなことです。結局、自分ではない主体が外にあるという選択をせざるを得ない場合、なかなかやっぱり足が止まるかなって感じです。

 

ゴリ押しされたとか、仕方なくというケースもある。経済的問題があり、通信制でも本当は私立に行きたかった。そのほうが圧倒的に充実していて自分が望んでいることがかなうかもって思ったけど、費用の面で断念せざるをえなかった。しかし入学してもそこではうまくいかず、やめてしまう。子どもは本来望んでないから、親ももうそれは諦めざるをえないのです。そこでまた私は同じことを続けて伝えるわけですよ。自分の心の声を大切にしたいよね。親にもさんざんそれを言うわけです。子の成長とか、子の健康を願うのが親ですよねと。そこであらためて、方向性を修正する場合もあります。ナビで言えば再探索。私の仕事は言ってしまえばナビゲーターみたいな部分もあります。  

                       

社会との関わりを学校以外でも積めたかが進路選択のカギ

 

社会的経験を学齢期に、学校生活以外でもどれだけ積めたかっていうのが大きいですよね。通信制に行っている子はバイトをしている子がたくさんいますが、それはそれで本当に社会の一部をしっかり自分で確認できる大切な経験です。全ての学生がバイトする必要はないのだけど、何らかの社会参加があるかないかが、通信制高校卒業後の進路選択に大きく影響するかなと思います。

 

発達障害の子も早いうちから、学校の中だけじゃなくて社会の一部でいろんなことを主体的に学ぶ機会を増やしたほうが絶対いいと思います

最近の中学生は、1週間ぐらいの職業体験をするというプログラムがあり、私はとても大切と思っています。早いうちから社会の仕組みを知るというのが本当に大事だと思っていて、そういう社会参加型教育プログラムをもっと増やすべきだと思います。なかには「こんな社会はやっぱりおかしいよね」って疑問を抱いていく子どもたちもいると思うんです。社会を知らないまま学校という箱の中で、「こうだ」っていう教育を受ければ、そういうものなのかなって思ってしまいます。

 

だから、箱の中で学ぶことと、箱の外で学ぶこと両方ちゃんと両立した教育が絶対必要だと思います。高校卒業後なかなか進路が決まらないという大半が、社会参加がいろんな理由で阻まれているというのが、私は大きな要因だと思います。知らないとか、自分の可能性っていうものを感じられる機会がない。学校のプログラムの中につくればいいのにと思います。

(取材・編集/学びリンク)

   

                                 

有賀 道生(ありが みちお)さん【プロフィール】

桐の木クリニック院長 児童精神科医

群馬大学医学部附属病院精神科神経科助教、 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 診療所所長、横浜市東部地域療育センター所長などを経て、令和2年より現職へ。群馬県とくに西毛地区(高崎市・安中市・富岡市など)の地域精神医療に従事し、「ゆりかごから墓場まで」すべてのライフステージにおけるメンタルヘルスケアの実践を試みている。また、群馬県内の各種講演会、研修会での講演活動のほか、県内の小・中学校、高等学校における教員へのスーパーヴァイズや、少年院へ嘱託医勤務し、犯罪・非行に関する矯正医療にも継続して携わっている。

12月3日(日曜)東京都・新宿通信制高校・サポート校合同相談会