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「気になりますね!通信制高校」
新刊書籍から読み解く不登校対応③
『通信制高校を選んだわけ』から

 2021年9月15日
 

◇◇新刊書籍から読み解く不登校対応
第3回『通信制高校を選んだわけ(通信制高校選びは一人ひとりちがうのがいい)』から◇◇

9月に発行された『通信制高校を選んだわけ』(監修 山口教雄、取材 学びリンク編集部)は、通信制高校を選ぶまでの過程、学校生活、卒業後について卒業生・在校生が率直に体験談を語ってくれている本です。
卒業生、在校生16人のうち11人が不登校を経験し、3人が転入学により通信制高校に入学しています。
今回は、この本から不登校などから通信制高校を選んだ卒業生、在校生の実情をご紹介します。

◎約6割が不登校経験を持つ通信制高校
通信制高校の不登校経験者割合は、1~2県から入学できる狭域通信制高校で48.9%、3県以上の広い範囲から入学できる広域通信制高校で66.7%という調査結果があります。別の調査では通信制高校に入学した生徒本人が59.2%、その保護者が68.3%と過去に不登校経験があったと回答しています。(※)

通信制高校に入学した生徒のおおむね6割程度が不登校を経験していると思われます。
生徒本人と保護者という“親子”で不登校経験に対する捉え方が10ポイント近く異なるのも両者の微妙な心理を反映しているものと思われます。保護者のほうが本人よりも心配している気持ちがうかがえます。

また、年度途中に入学した生徒数は、2019年度で約2万5千人となっています。公立・私立で分けると公立校は13.8%(1,946人)、私立校は32.1%(21,393人)が年度途中入学者の割合となっています。いかに柔軟に生徒を受け入れているかがわかる数字です。

(※)
・狭域と広域を区分した調査結果:平成29年度文部科学省委託事業「定時制・通信制高等学校における教育の質の確保のための調査研究」報告書(平成30年2月、公益財団法人 全国高等学校定時制通信制教育振興会)
・生徒本人とその保護者を区分した調査結果:「通信制高校生徒・保護者アンケート調査」報告書(新しい学校の会 2014年度、回答数:生徒2,468人、保護者1,186人)

◎仕組みを知るのも動き出すきっかけに
本の第1章「通信制高校を選んだわけを聴く 卒業生編」では、卒業生4人が通信制高校を選ぶまでの過程を語ってくれています。4人とも不登校を経験しています。

通信制高校の仕組みを知ることも動き出す重要なポイントになっています。
不登校とひきこもりを経験した卒業生は「卒業までにあと2年間は必要だと思っていたので、それが1年間で卒業単位を全部取り切れると知って、めちゃめちゃ頑張って単位を全部取ったろうと思って」とあきらめていたことが実は案外簡単にできると知ったことが動き出す決め手になり、転入学しました。

中学でほぼ半年間の昼夜逆転・ひきもり状態だった生徒は、そのころの記憶が“真っ白”だと言います。
学校復帰のきっかけは修学旅行をきっかけに東京に行きたいという気持ちでした。「朝起きて、学校へ行って、ちゃんとした生活を送るのって、しんどいなとか、周りがうるさいなとかあったんですけど、不登校になったときみたいに嫌だとはならなかったです。学校生活はこれかみたいに、当たり前のことだと思えました」。
記憶が“真っ白”な半年間は、別の言い方をすれば何も考えずにしっかりと休養できた時間になっているのかもしれません。

高校は3年間で卒業し、次の進路に行くという意外と根強い考え方があります。ほとんどの方は、これ以外の選択肢が思い浮かびません。
卒業生のうち2人は、卒業後1年間を具体的な進路を決めずに時間を使いました。大学受験のために高卒後に予備校などに通う人を浪人生と呼びますが、この2人は既存のレールとは異なる自分の適所を見つけるためのまさに浪人だと思います。

1人は、1年間のアルバイトで経験した放課後等デイサービスに自分の居場所を見つけて、保育士などの資格を取得するために3年制専門学校に進学しました。今はその資格を活かしその分野で活躍し、20代半ばにもかかわらず1事業所を任されるまでになっています。
もう1人は、偶然あった交通事故で助けられた経験から自動車整備士を知り、4年制専門学校へ進学し、この春1級自動車整備士の資格を取得し陸運局に勤め始めました。

2人とも浪人時代の1年間が先の決意を固める時間になっているのだと思います。
1人は通信制高校に入学を決めたとき「初めて人生の大事な決定打を打てたことになりました」と回想してくれましたが、高卒後1年間を経てもう一度“人生の決定打”を打てたと思います。

◎「学ぶ内容+自分に合った環境」を選べる
本の第2章「通信制高校を選んだわけを聴く 在校生編」は、在校生12人に話を聴いています。
実に多彩な学ぶ内容と具体的な学校生活があるのがわかります。学ぶ内容は、イラスト・美術、野球、eスポーツ、海外留学、美容師など多彩なものがあります。

学校生活を選んだ背景として何人もの在校生が言うのは「自分に合った環境を選んだ」ということです。 「○○高校」を選んだというより、それぞれの状態から「こういう環境ならやっていけそうだ」という見通しを持って選んでいるようです。
在校生の通信制高校を選ぶ際の状態は、不登校、ひきこもり、中等部から通信制高校へ、訪問支援、起立性調節障害、発達障害、いじめ、大学進学志望などとなっています。

やりたいことがある程度明確な場合は、「学ぶ内容+環境」の組み合わせになります。
例えば、ある在校生は小さいころから好きだった「イラスト」が学べることと、中学時代に周囲との折り合いがつかずに不登校になったので「高校は全く知らない場所、知らない人ばかりなので、一からスタートできる感じもあり、新しいことにも挑戦できる楽しみがありました」としがらみのない環境を選んだことが功を奏しています。

いろいろなものが両立できるのがメリットです。
通信制高校在学中に4地域で海外留学を果たした在校生は「実際にやってみて、通信制高校だからこうした両立が可能なんだなと実感しました。おかげで、留学中は余計な心配をせずに語学だけに集中することができたと思います」と話してくれました。

中学時代に起立性調節障害を発症し、しんどい思いをしながら学校生活を送ってきた在校生は話の最後を次のように締めくくってくれました。ここでも最後にその言葉をご紹介します。
「通信制高校って自分の意思で学校生活を作っていくものだと思います。色々なことを曖昧にしたままでは前に進まないし、自分の目的や体の状態と向き合いながら、自分で決断する場面が増えます。そういった意味では、自分を変えていける場所かもしれないですね」。

今回は、『通信制高校を選んだわけ(通信制高校選びは一人ひとりちがうのがいい)』からご説明しました。

次回からは、新シリーズ『高校生15人に1人になった通信制高校生』について、最新データを踏まえながらご説明します。
次回もよろしくお願いします!