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「気になりますね!通信制高校」
“学ぶ場所”の位置付けがかわり始めた①
ネット・ICT高校化なのになぜ“場所”を再定義

 2022年7月29日
 

◇◇「“学ぶ場所”の位置付けがかわり始めた」(3回連載)
第1回 ネット・ICT高校化なのになぜ“場所”を再定義

大学は、オンラインで入学から卒業まで完結できます。インターネットの普及から考えれば、別段不思議なこととも思えません。
通信教育を教育手法とする通信制高校なら、なおさらオンラインで完結できてもよさそうです。

ところが、実情はそれと逆行するように通信制高校の「学ぶ場所」を細かく定義しようとする動きが活発です。背景には、昨年3月の高等学校通信教育規程改定という通信制高校を対象とした法令があります。

通信制高校の「学ぶ場所」とは。その存在意義はどんなものか、そしてこれからどうなっていくのかー。3回にわたってご説明します。



◎通学コースがあるおかげで

通信制高校は、2000年代前半からいわゆる“ネットの高校”を掲げた高校があらわれました。それらの学校は、オンライン教育(一般的にはほとんどが課外授業)と統合型校務支援システムの導入により生徒の意欲を引き出すとともに転編入生など多様な生徒の受け入れを可能にしてきました。

ちなみに高校卒業に必要な国数英理社などの高校普通科目の勉強は、NHKテレビ高校講座や教科書会社のネット講座も活用されています。こちらも、どんなデバイスでも視聴できます。そして、デジタル教科書が浸透するに至り、通信制高校全体がネット・ICTの高校化しています。
時間や場所の制約を受けずに、自分のペースで学校生活を組み立てることが現実にできるようになりました。

ネットの高校化が進む通信制高校なのに「学ぶ場所」を細かく定義しようとする動きがあるのは不思議です。法令改正のその大元ともなっているのは、通信制高校の通学コースの存在です。 下の表を見て下さい。これは、通信制高校生の通学コース(週1日以上の通学)利用状況をまとめた表です。私立と公立で分けています。





通学コースを利用しているのは、私立・約7割、公立・約3割と様相がくっきり分かれます。
私立通信制高校で卒業率がほぼ8割以上となっているのは、この通学コースによる日常的な生徒へのフォローが要因となっています。通信制と言いながらも、学ぶ場所があるおかげで成り立っている面も大きいのです。

◎ずれている方向感覚!?

昨年3月の高等学校通信教育規程改正により“学習センター”“キャンパス”“サポート校”と呼ばれてきたサテライト施設は、法令上「通信教育連携協力施設」と定義されました。約2,600か所が全国にあると見られます。

施設はさらに2種類に分かれました。通信制高校卒業に必要なスクーリング(面接指導)ができる「面接指導等実施施設」と、生徒の日常的な学習支援を行うサポート校などの「学習等支援施設」に区分されるようになりました。

面接指導について、私は合同相談会の仕組み講演などでは便宜上「授業」と呼んでいますが、実は全日制・定時制課程の「授業」とは異なります。
通信制課程の面接指導とは、それまでの添削によるレポート学習でわかった個々の生徒の学習上の課題を考慮してその後の自学自習への意欲を与えるものとされています。

やる気をなくさせない。原則は、個別指導なのです。これは、通信制課程の理想と言えますが、その人に適した個別最適化学習をするには、学習する“場所”ではなく一人ひとりの“学習履歴”を把握することが肝心です。

ただ、学習する場所が日常的に用意されている場合は、そこでの生徒と教員との交流でシステム管理されたものとは別に同じ時間を過ごすことで気持ちの面も含めた“学習履歴”が把握できます。

「面接指導等実施施設」は、これまでは協力校と呼ばれる本校以外の高校とされてきました。例外的に大学、短大、専修学校、技能教育施設が認められてきました。
高等学校通信教育規程の改正では、これら例外扱いだった施設が条文化され、さらに「その他の学校又は施設」という文言が加わりました。「その他の学校又は施設」は都道府県によって扱いが異なります。

サテライト施設のほぼ半数を占めるサポート校は学習等支援施設に区分され学則記載事項となりました。
「学則記載事項になったから何?」と思われるでしょう。

通信制高校の学則変更は原則、私立学校審議会という知事の諮問機関に申請し、審議され認められる必要があります。申請者となる学校も、仲介する県の担当課も、審議委員もけっこうたいへんです。たいへんですから、この方式のメリットは安易な申請はしないだろうと予想されることです。増えないように規制をかけているとも言えます。

一方、どの都道府県も私立学校審議会は年に2回から3回しか開かれないのが一般的ですから民間事業者が設立するサポート校などの事業スピード感はなくなります。学習塾を設立するのに教育委員会に申請し、教育長が設立の可否を判断するようなものです。どっちつかずのまま生徒募集時期を失するということもあり得ます。

通信制高校が掲げている自学自習という学び方は、どちらかと言えばこれも理想です。この学び方を持続できる人はそうそういないのではないでしょうか。 そのためには、世話をしてくれる人のいる「学ぶ場所」は必要だと思います。ネット・ICT高校化が進む中で、法令を盾にとってそれを規制しようとする感覚は方向がずれているように思います。

今回は、「ネット・ICT高校化なのになぜ“場所”を再定義」についてご説明しました。いかがだったでしょうか?

次回は、「“場所”の定義は都道府県によってこんなに違う!?」についてご説明します。
次回もよろしくお願いします!