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通信制高校と「その後」#01(後編)
「選択授業を通して、特性に向いた進路へ」Kさん親子

 2023年12月21日

 

(前回までのお話) 「家庭との連携を学校側も重視」Kさん親子(前編)

幼少期から能力の凸凹(いわゆるギフテッド)のあったKさん。小学校時代に家庭の状況変化や過集中によるゲーム依存などもあり、小・中学校と不登校を経験。入学した通信制高校は、「一人で集中したい」Kさんにとって、動画視聴の授業スタイル、無理に友達と交流しなくて良い「そっとしておいてもらえる」環境が合っていた。学校は個別支援計画に保護者の意見を取り入れるなど、学校と家庭が連携しながら、Kさんの学校生活を見守っていった。 


[通信制高校から就職へ]
選択授業のプロジェクトからインターンへ
特性に向いた仕事 勉強も積極的に


畠中:お母さまのお話から、Kさんが高校生活のなかで、社会に出てからも大切な力を身につけていかれた様子がわかりました。それでは、Kさんご自身は、高校時代のターニングポイントは何だったと思われますか?

Kさん:実は、自分では当時のことをあまり覚えていないことも多いんです・・・。ただ、一つ大きかったのは、高校の選択授業でIT人材を育成するプロジェクトに参加できたことです。そのプロジェクトで今の情報セキュリティ会社と出会い、入社につながっていきました。

畠中:おお、それはすごいですね! 入社までの経緯を教えていただけますか。

Kさん:プロジェクトの後に、今の会社からインターンシップに誘われました。インターンでは、セキュリティ上の穴がいくつもあるプログラムが用意されていて、「その穴を見つけだせ!」といった課題をこなしていきました。パズルや間違い探しのような作業で、そうしたものは3歳ごろから得意だったので、何となく手に馴染む感じがありました。

最初は体験的に参加しただけでしたが、数ヶ月後に、面談を受けてみないか? と誘われ、選考に進みました。面談後、朝から夕方までびっしりある2週間のテクニカル研修と最終試験を経て、入社に至りました。

お母さま:小さい頃から文章や絵ではなく、数字や記号、英語に特化してワーキングメモリーが高い子でした。そのため、規則性のあるものの中に不規則なものがあることに気づけてしまうところがあって、そうした特性が今のハッキングするような仕事に向いていたのかなと思います。

畠中:プロジェクトとの出会いとタイミング、Kさんの特性が見事にマッチしたんですね。 実際に現在はどんなお仕事をされているのですか?

Kさん:現在はSOC(Security Operation Center:ソック)アナリストという仕事をしています。具体的には、顧客企業のセキュリティソフトから送られてくるログを解析し、危険度が高いアラートが出ている部分について、実際に見て本当に危険度が高いのか低いのかを判断するような業務です。

畠中:それはとても専門的なお仕事ですね。高校時代はあまり勉強をしなくて楽だった、と おっしゃっていましたが、入社後は覚えることも多かったのではないですか?

Kさん:入社後から様々な研修を受けたり、自分で勉強もして、いくつか資格も取りました。確かに通信制高校の時は全然勉強をしなかったのですが、今の仕事は、研修も楽しいし、資格も実際の業務で必要な内容ばかりなので「これは知っておかないと」という意識で取り組めています。

畠中:なるほど、必要性を感じられたことが、専門的な勉強に打ち込めた原動力なんですね。 生活面にも変化はありましたか?

Kさん:高校までは生活リズムがぐちゃぐちゃでしたが、働き始めてリズムが整ったのは良 かったなと思います。実は今、通勤に1時間半くらいかかっていて、SOCアナリストは24時間体制でセキュリティを監視するので、早番や遅番もあるんです。正直、朝つらい時もありますが、なんだかんだやろうと思ったら続けてこられたし、これも「必要だからできるようになった」という感じだと思います。

畠中:必要な環境に置かれたらできる、というのはすごいことですね! 職場の環境、周囲の人との関係はいかがでしょうか?

Kさん:一日中話さない時もあるくらい静かな職場です。就業中は1人にしてほしいタイプなので、とても快適です。でも職場の方々はみんな優しくて、フレンドリーなので、困った時でも気軽に話しかけられる雰囲気があります。怒る人もいないし、怒られたこともないですが、こうした安心感のある今の環境はとても合っていると思います。


[進路選択をする親子へのメッセージ]
通信制高校にある「モラトリアムな時間」が私たち親子には必要だった


畠中:高校時代に人に助けを求めることができるようになった、というのが生きていますね! これからの目標はありますか?

Kさん:業務ごとにチームがあるのですが、先日サブリーダーになることができました。また入社から半年間はアルバイト、その後1年間は契約社員だったのですが、こちらも先日、正社員になることができました。今後も業務で評価され、部署内での地位が上がるよう努力していきたいです。

畠中:正社員登用、おめでとうございます! 実績が評価されてのことであり、素晴らしい と思います。ご自身の経験を振り返って、これから進路選択を迎える親子へ伝えたいことは 何でしょうか。

Kさん:通信制高校だと、自分のペースで好きなように時間を過ごせると思います。自分にはそれが合っていました。ただ、それが誰にでも合うわけではない、ということはお伝えしたいと思います。

お母さま:通信制高校時代は、本人も学校へ「行く」と言って行かない日があったり、実際は家でゲームをして、たまにレポートをするような日も多かったです。その良し悪しはあると思いますし、息子の言うように、みんなそれぞれ状況が違い、それぞれの道があると思います。

ただ、当時の私たちにはそうした「ゆとりある時間」が必要だったのだと、今振り返って思います。本人がじっくり考える時間、私にとっては息子を知る時間が必要であり、もしあの時、無理やり軌道修正して学校に行かせようとしていたら、きっと今はなかったでしょう。通信制高校の中には、そうしたモラトリアム的な時間があり、私たち親子にとってはとても大切な期間でした。

親が良いと思っても、本人の気持ちとずれていると難しい。親ができることは、本人が自分と向き合うこと、本人の葛藤に寄り添い、選択した道を応援することなのかなと思います。 

畠中:Kさん、お母さま、貴重な体験をお伝えいただき、ありがとうございました。

取材後記
不登校を経験されたKさんですが、ご自身の強みを生かした仕事に出会い、とても意欲的にお仕事に取り組まれている様子に感銘を受けました。お母さま目線から感じておられる、通信制高校で過ごした時間の意義も、今後の進路選択においてとても参考になるお話でした。(畠中)