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「気になりますね!通信制高校」
新刊書籍から考える不登校対応③
『マンガ脱・「不登校」3 起立性調節障害(OD):特性を認め合う「おたがいさま」のまなざし』(加藤善一郎 著)

 2022年12月2日
 

◇◇「新刊書籍から考える不登校対応」(3回連載)


第1回 『不登校後を生きる』(樋口くみ子 著)ー不登校後を自分らしく生きるヒント

第2回 『マンガ脱・「不登校」2 起立性調節障害(OD):長期化する「OD複合型」への対応』(加藤善一郎 著)
ー専門性をベースにした実践家からの提言


第3回 『マンガ脱・「不登校」3 起立性調節障害(OD):特性を認め合う「おたがいさま」のまなざし』(加藤善一郎 著)
ー専門性をベースにした実践家からの提言


このシリーズは、学びリンクから出版された3冊の近刊から不登校対応の考え方やその具体的な方向についてご説明します。
今回ご紹介するのは『マンガ・脱「不登校」3』です。シリーズ3は、学校の合理的配慮が重要なテーマになっています。学校関係者の皆さんにもぜひ読んでいただきたいものです。著者の加藤善一郎さんは、岐阜大学教授、小児科医師でもあります。


第3回 『マンガ脱・「不登校」3 起立性調節障害(OD):特性を認め合う「おたがいさま」のまなざし』(加藤善一郎 著)
―専門性をベースにした実践家からの提言

◎「知的アンバランス」という特性

学びリンクが全国の主要都市で開催している『通信制高校・サポート校合同相談会』では、ほとんどの会場で起立性調節障害(以下OD)相談コーナーを開設しています。
この相談コーナーは、どの会場も親の会が協力してくれています。わが子がODにより学校に行きづらくなり進路に悩み、そのために家族関係がギクシャクした経験を持っている方々が相談者となっています。どの会場でも多くの方がこの相談コーナーで相談しています。

著者の加藤さんによるとODとは脳貧血の状態になり頭痛をはじめ腹痛、倦怠感などさまざまな症状を引き起こすということです。また、午前中に症状が悪くなりやすいのですが、午後には症状が改善することが多いという特徴もあります。
学校生活でみれば、登校準備から登校する午前中は体調が悪く登校できないのに、午後から回復するので、学校に行かなかったが一見元気になって遊んでいる。つまり、見方によってはサボっていたように見えます。

加藤さんも「本人は病気でつらいのに、叱られてしまう病気」と言い、さらに普段の状態を目の前で見ている母親は比較的理解が早くすすむのに比べ、夜しか見られない父親や、ときどきしか会わない祖父母、親戚のなかでも理解が異なることで、問題化することも多いと指摘しています。

本書シリーズ制作中、よく加藤さんから言われたのは「ODは体質である」ということです。
これを理解するために、よく花粉症が引き合いに出されました。花粉症も同じ空間にいるのにアレルギー反応が出る人と出ない人がいます。それは体質が違うからだと。
花粉症の人に「不摂生しているから花粉症になったんだとは誰も責めないでしょう」ということです。アレルギー反応だから薬を飲むのも自然のこと。
この例え話は、花粉症で苦しみながらも薬を飲むのが嫌いな私にとって視点を変えてくれるものにもなりました。

シリーズ2にもありましたがODの患者さんには、ODがメインの病態で、その症状が改善されるだけで登校に結びつく「OD単純型」と、ODとは別のプラスアルファの要素も一緒に考えなければならない「OD複合型」とがあるとされます。

OD体質とともに知的特性と発達特性が絡み合っているのがOD複合型です。小児科医として加藤さんが診ているOD患者さんの9割以上がこのOD複合型ということです。
OD複合型のプラスアルファの部分として特に多く見られるのが「知的アンバランス」という特性とされます。

◎「皆さんは、なにもしないほうがいい」という真意

主人公まさや君は、中2の前作でOD対策として内的環境調整(学校を休むこと、薬の調整、気持ちを楽にすること)と、外的環境調整(周囲の理解、中学校で本人の取り組みやすい勉強法)が効果をあげ、OD状態が改善して中学へも登校できるようになっていきます。

ところが中3になったシリーズ3では、再びOD状態が悪化していきます。その背景には、外的環境変化があるのではないかと推測されました。

中3だと高校受験をひかえているため、ODが原因で不登校状態になると「内申点が下がる」「このままでは高校に行けない」というストレスが加わりがちです。本人もそういうマナイスの気持ちが芽生えますし、さらに周囲からもそういう言葉や無言の圧力が加わります。

まさや君の場合は、高校進学について自分の体調などに合わせてオンラインや場合によって通学で学べる通信制高校を選択肢として考え、高校受験にはそれほど大きなストレスを感じていませんでした。

まさや君のOD悪化として影響を与えたのが「知的アンバランス」という特性でした。
しかも、具体的には学校が生徒のために配慮してくれたチーム・ティーチングでした。この展開は、多くの読者の皆さんが意外に感じたのではないでしょうか。

ここで登場するのが、「知的アンバランス」を理解するうえで役に立つ「WISC」(ウィスク)という検査です。
WISCという検査があることをご存知の方も多いと思います。検査では、総合点として全検査IQ(知能指数)が現され、さらにそのIQを構成する「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリ」「処理速度」の4つの指標が数値化されます。
本人の得意・不得意な部分がわかるといいます。

まず、下記にまさや君の検査結果を見てもらいます。4つの指標にデコボコがあるのがわかります。
このデコボコを理解する見方が重要になるとのことです。
まさや君の検査結果の下に本書に収録されているIQ値と偏差値の分布図を入れました。
偏差値世代(大部分の人がそうだと思いますがー)の私にとって、この分布図がけっこう実感を与えてくれます。

まさや君の検査結果は次のように理解できます。
全検査IQは107で比較的良い。得意な知覚推理124(偏差値65ぐらい=100人中上位7番目ぐらい)に対し、言語理解93、ワーキングメモリ94(ともに偏差値45ぐらい=100人中65番目ぐらい)。

まさや君の場合は、学校が配慮してくれたチーム・ティーチングで頻繁に「わかった?」「わからないところはない?」と聞かれて、相手がどの程度の答えを求めているのかわかりづらく、同時に完璧な答えを返さなければという思いが強くなりある意味まじめに考えすぎて苦しくなった面があると説明されています。





学校側にせっかくの配慮があったものの、知覚推理が得意で、言語理解が苦手なまさや君にとっては、授業内容を得意分野の図式に変換して覚えようとして段取りを組んでも、外からの情報(言葉掛け)が入り苦手な言語理解を要求され混乱してパフォーマンスが下がって苦しくなってしまうのです。

学校の合理的配慮について、私には印象深く残っている加藤さんの言葉があります。

「皆さんは、なにもしないほうがいい」
2021年度に開校した不登校特例校「岐阜市立草潤(そうじゅん)中学校」を取材した昨年放映のドキュメンタリーテレビ番組で、開校準備を進める先生方全員を前にして加藤さんはこう言いました。
地域の期待を受けて熱意ある先生が自ら望んで集まった学校での発言ですから、聞いていた先生方はたぶん唖然としたのではないかと思います。

この発言の真意は、シリーズ3の中では登山に例えてこう述べられます。

どんな登り方をしても、最終のゴール地点はみんな同じですよね。だとすると、各個人のやり方をリスペクトすることこそが「合理的」ではないでしょうか。
大人と子ども、先生と生徒、それぞれ立場を超えてお互いの特定を認め合う「おたがいさま」のまなざしが大切だといいます。

それはマンガの次の場面に描かれています。




今回は、『「マンガ脱・「不登校」3 起立性調節障害(OD):特性を認め合う「おたがいさま」のまなざし』についてご説明しました。いかがだったでしょうか?

次回からは新シリーズ「生徒数が多い、少ない!? それって通信制高校の実力? 2022-2023年バージョン」についてご説明します。
新シリーズもよろしくお願いします!