椎名雄一先生コラム『不登校に効く心理学の話』72
小さな一歩を見逃さない 〜変化のサインに気づく視点〜
2026年2月26日
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「子どもがずっと部屋に閉じこもったまま」「何も変わっていないように見える」...そんな日々に、気持ちが沈んでしまう保護者の皆さんも多いのではないでしょうか。不登校の期間が長くなると、「このままでいいのだろうか」「一歩も進んでいないのでは」と不安になるのは当然です。
でも実は、子どもは気づかないうちに少しずつ前に進んでいます。今回は、その「小さな一歩」に気づき、受け止める視点と、変化が見えない期間の心構えについてお話しします。
不登校の子どもたちは、「どうせ親にはわかってもらえない」「何をしても怒られるかも」という不安を抱えがちです。そのため、大きな変化を見せるのは難しくても、心の中では少しずつ準備をしています。そのサインはとても小さく、見落としやすいものですが、親が気づいてくれると、子どもは安心してもう一歩を踏み出せます。
例えば、以前は返事もしなかったのに、今日は小さな声で「うん」と返した。ほかにも、部屋のドアが少し開いていた、部屋で食べる食事の量が変わった、制服を手に取ってみた...。これらはすべて子どもなりの「サイン」です。
あるお母さんはこう話してくれました。「息子がリビングに来て、5分だけ座ってご飯を食べてまた部屋に戻ったんです。前は一歩も出てこなかったので『おはよう』と控えめに声をかけました。すると次の日も来てくれるようになりました」。親が気づき、認めてくれることで、子どもは 安心して前に進めるのです。
こうした小さな変化に応えるときは「評価や要求をしない」ことが大切です。「そのくらい当然」「次はもっと頑張って」「学校はどうするの?」と言うのではなく、「おはよう」「ありがとう」「おやすみ」などから始めたいですね。
この時期に大事なのは言葉で埋めようとしないことです。
多くの親はチャンスだと思うと饒舌になって話し過ぎてしまいます。まだどんな気持ちで姿を見せてくれたのかが掴めているわけではないので、当てずっぽうに話すとずれてしまいます。また饒舌すぎると「また学校の方に誘導される」と警戒する子も少なくありません。大事なことはちゃんと見ていることが伝わることですから、微笑む、「おはよう」くらいの短い挨拶をするくらいで十分です。言葉を使えば使うほどミスする可能性が増えてきます。非言語的な表現で安心できる雰囲気を伝えるのがちょうど良いです。
何度かあいさつができるようになったら次のようなことも試せるかもしれません。
例えば、お子さんの好きなことがわかっている保護者は「今度顔見たら渡そうと思っていた」という雰囲気で、お子さんの好きなものを渡す人もいます。例えば、推しのグッズやレアカードなどです。高価なものを渡してテンションを上げようというのではなく、あなたの好みを忘れていないよというメッセージのためですのでお子さんの好みとグッズ選びの加減を間違えないようにしてください。グッズではなく、夕飯のメニューやデザートで会話が成り立つ親子もいます。
お気づきの方も多いかと思いますが、コミュニケーションは「学校に行かせるためのもの」ではありません。だからこそ普段からお子さんの好き嫌いや価値観を知っておく必要があります。このタイミングで「学校」の話しか話題がないととても苦戦します。
一方で変化がしばらく見えない時期が続くこともあります。その場合も「変化は土の中で芽を出そうとしている時期」と考え、焦らず、待つ姿勢を大切にしてください。子どもは確実に少しずつ前に進んでいます。
毎日の中で、小さなサインをたくさん見つけてください。
ただ、それをそのまま伝えてしまうと「監視されている」「チェックされている」「できたと思われたらできない日は怒られる」とお子さんに警戒されてしまいます。変化に気づいて、見守っている(見守る=何もしないではない)ことで親子の間で少しずつ疎通が始まると徐々に動きができてきます。
例えるならば『いつも通る道にいつもいるおじいちゃん』と関わるようなイメージです。
いつもそこにいるのでおじいちゃんにお辞儀をしてあいさつするようになり、声に出して「おはようございます」と言うようになり、徐々に「今日はいい天気ですね」と話すようになるかもしれません。そんな距離の詰め方がこの時期とても大事です。
子どもは、ゆっくりでも必ず前に進んでいます。その歩みを信じて、支える保護者の皆さんの姿勢は、お子さんの安心感になります。お子さんの一歩が次の一歩につながっていくことを、心から願っています。

